大石内蔵助は、吉良邸に討ち入った。
「おのおの方、覚悟はいいか、死ぬも生きるも一緒でござる」
見事主君の仇を果たした暁には、主君の前で腹をかっさばこうと言っていた大石も、
いざ死ぬとき怖くて腹に突き刺せなかった。
腹切りは痛いし、すぐに死ねない。
『ぐさっ』とさして。
途中で死んでくれたら良いんだけど腹切っても死ねない。
で、抜いて、また刺してこうして十文字腹。
痛いんだぞ。
これまで切腹した人は痛かっただろう。
あれは痛そうだぞ。
小学校の頃、
起立、礼、着席、
その時に椅子の上に画鋲を置いておく、で、
『あいた!』
それでも痛いのに、十文字に切る。
これは痛い。
その苦しみに耐えられなくなるから、
苦しむのを見るのに忍びないから介錯人がいる。
あれは親切なんだぞ。
ところが大石内蔵助の介錯人はいつまでたっても大石が腹に刺さない。
ずっと介錯人が立ったまま。
『大石殿まだでござるか。』
何をしているのか。
手が震えてさせなかった。
死の恐怖のために大石ほどの男でも腹にさせない。
一時的に感情が高ぶってもう死んでも良いと言うときは死ねるけど、
それは興奮状態で気がどうかなっている。
でも落ち着いて考えてみると怖くて仕方がない。
当時大石は男の中の男。
今でもそう言われているんだから。
この大石殿の名誉に傷を付けてはならないと言うことで